1.はじめに
水俣病患者被害者救済に向け道筋が開け、水俣の環境も美しくなっていることと思っている方が多いと思われるが、膨大な有害廃棄物は残されたままであり、廃棄物処分場の土木構造物も劣化が進んでいる。2010年5月(ゴミゼロの日)に水俣の環境汚染について視察する機会を得たので報告する。
↓水俣市の空中写真 2010年6月 googleより
↓ 水俣川左岸付近の空中写真 2010年6月 yahooより
2.土壌汚染
2.1汚染濃度
水俣市立水俣病資料館で過去の水俣市公害防止報告書を全て調査したが、汚染の実態を示す具体的な数値を掲載しているのは「昭和50年度~昭和51年度上期判」のみであった下記にその内容をしめす。
市内の土壌汚染調査を実施しその内容を公開すると共に、高濃度汚染の土壌には計画的な対策が必要である。
水俣市公害防止報告書(昭和50年度~昭和51年度上期)より
<大迫廃棄物埋立地周辺底質調査>
泥土層0~20cm 総水銀量:16.6mg/kg~(土壌環境基準超過)
<大迫廃棄物埋立地廃活性炭埋立地>
水銀含有量:700mg/kg~ (土壌環境基準の46倍)
水銀溶出量:0.0047mg/L~(土壌環境基準の 9倍)
<明神産業廃棄物>
泥土層0~20cm
総水銀 :255mg/kg (土壌環境基準の17倍)
アルキル水銀:10.8mg/kg(スゴイ)
ヒ素 :1320mg/kg
<自動車学校産業廃棄物(カーバイト残さ)>
泥土層:0~20cm 総水銀:3.8mg/kg
<藪佐産業廃棄物(カーバイト残さ)>
泥土層:0~20cm
総水銀:3.8mg/kg
<大迫産業廃棄物(カーバイト残さ)>
3.84mg/kg
2.2 カーバイトの埋立
水俣市はかつて塩田や湿地帯が広がっていたが、土地造成をするために、工場からの廃カーバイトを盛土材として利用してきた。現在でも斜面の下方部や水路天端が白くなっているのを確認することができる。
カーバイトが埋立されているところの例を下記に示す。
・新水俣駅西側駅前(国道)付近
・水俣駅東南(自動車学校)付近(総水銀:3.86mg/kg)
・百間水路放流口付近
・大迫(総水銀:1.56mg/kg)
・藪佐(総水銀:3.84mg/kg)
・明神(総水銀:308mg/kg アルキル水銀:10.8mg/kg ヒ素:618mg/kg)
・ちどり保育園周辺
・水俣市学校給食センター ~ 警察アパート周辺
・県立水俣工業高校周辺
・市立水俣第二中学校付近
・汐見町公民館周辺
2.3 複合汚染及び有害汚染物質名不詳地域
・介護老人保健施設やすらぎ苑付近
・コーポ白浜~毎日新聞水俣販売店付近(白浜町一帯)
・ひばりヶ丘運動場・水俣警察署・水俣芦北広域行政事務組合消防本部
・江川水俣工場付近
・渕上病院付近
・グリーンパークゴルフ練習場、水俣環境テクノセンター、水俣エコタウン、熊本県水俣保健所、
メゾンはなみずき、水光社ハウジングサービス、水俣市シルバー人材センター、
水俣市環境クリーンセンター、水俣市浄化センター、水俣総合技術センター、すずかけ保育園、一帯
・市立第二小学校などチッソ工場周辺一帯
・熊本県環境センター南(明神町)、チッソ開発(汐見町)
・水俣広域公園(エコパーク水俣)、道の駅 たけんこ、水俣港湾合同事務所、水俣フェリーターミナル、
アール・ビーエス月浦センター 埋立地一帯
・新栄合板工業
2.4 水俣広域公園のダイオキシン類汚染について
水俣チッソ工場内底質において83,000pg-TEQ/gのダイオキシン類が検出されている。また、百間排水路が水俣港に流れ込む付近の底質ダイオキシン類濃度は920pg-TEQ/gが公表されている。
水俣港では昭和63年に公害防止対策事業が行われ水銀やダイオキシン類を含む底泥を浚渫し水俣広域公園に埋立てた。
昭和63年以降にヘドロが約1.5m堆積しており、その部分にダイオキシン類含有量が920pg-TEQ/gに対し、自然のままの底質は0.95pg-TEQ/gが公表されている。チッソ関係者の証言によると「ダイオキシン類は昭和33年頃から生成されている」とのことから、水俣広域公園の埋立て土砂にはダイオキシン類が含まれているのは明らかであり、速やかに調査を実施しリスクを管理すべきである。
なお、チッソ工場のある千葉市原港の汚染原因はチッソであることの可能性が極めて高いとの証言を得た。
3.地下水汚染
水俣にはかつての塩田や田畑に盛土材として膨大な量の廃カーバイトが埋立てられている。その廃カーバイトを透過した地下水が湧出した地下水が目立っている。特に、水俣工場周辺や水俣川左岸河口付近が顕著でありエコタウン、ゴルフ練習場及びクリーンセンター等の法尻には白く固化した地下水が多く確認することができる。
排水口が鍾乳石の様に変化する排水口は直ちに対策を講じる必要があり、市内の地下水調査を実施しその情報を公開する必要がある。
また、高アルカリの地下水は水俣川河口部湧出しており、漁業調整規則に違反が懸念される。
↓水俣市築地ゴルフ練習場前の法尻から湧き出る白い地下水と白くなった水路
↓ 水俣市浄化センターポンプ棟南西側交差点付近排水口。排水管は水俣クリーンセンターやエコタウン方向からの流下している。(鍾乳石のように排水口が変形しているのには我が眼を疑いました。)
↓浜松町水俣市浄化センターの水俣川側の法面から湧き出る白い地下水
↓浜松町水俣市浄化センターの水俣川側の石垣から湧き出る白い地下水
↓浜松町から八代海(不知火海)に流れる排水口は白くなっています。
4.底質汚染
4.1八代海に広がる水俣の水銀底質汚染
水俣湾のヘドロはかつて、公害対策事業として水銀を当時の暫定基準に基づき25mg/kgより高濃度に汚染された底質を浚渫し、今の水俣エコパークである百間排水路河口部に埋立てられられた。
現在も水俣湾は5mg/kgを超える水銀を含む底質が沈殿し、八代海には比較的高濃度で底生生物が減少する水銀を含む底質が広範囲に蓄積している。
高濃度汚染域の速やかな浄化対策と低濃度汚染区域の生物多様性を考慮した対策が必要である。
↓九州の地球化学図 (産業技術総合研究所HPより)
↓八代海(不知火海)の地球化学図拡大図
産業技術総合研究所の地球化学図(今井登他)には 八代海における底質水銀濃度が他の海域よりきわめて高濃度であることを公開している。
八代海における底質水銀濃度
八代海北端部 No34 98 ppb( ng/kg)
八代海北~中央部 No39 187 ppb
八代海中央 No43 332 ppb
八代海中央~南部 No44 393 ppb
八代海南端部 No47 113 ppb
4.1 個別測定結果
・大迫不燃物及び廃活性炭等埋立地(総水銀:1.48mg/kg)
・水俣川左岸河口部(総水銀:2.27mg/kg)
注:上記4.1における総水銀濃度は「公害調査報告書(昭和50年度~昭和51年度前期) 」に基づいており、昭和50年以降において、有害物質が濃縮・蓄積・堆積していることを否定できない。
5.土木構造物
水俣港や水俣川河口部には多くの汚染底質や有害産業廃棄物が埋立てられており、その周囲を土木構造物で固めている。水俣川河口部の護岸・擁壁等の護岸構造物を確認したが、至る所にクラックが生じており、錆びた鉄筋が露出しているところも随所に確認できた。
護岸等の汚染物質周辺の構造物の系統的かつ組織的な点検が必要であると考える。
写真では判別しにくいが一例を示す。
↓浜松町のチッソ水俣最終処分場の外周護岸(維持管理は行政が行う。)
↓浜松町のチッソ水俣最終処分場内の水路の擁壁 下部は骨材が露出し何故か突き出している。研究員からの報告によると下部に排水管が存在したとのこと。
水俣港周辺はダイオキシン類や水銀等の有害有害物質を含むヘドロで埋立られている。護岸は鋼管セル等で築造されていおり、鋼材の腐食は避けられず、1977年から33年を経過た現在において護岸構造物の安全性が心配される。
水俣湾沖には活断層が存在する。地震や津波にこれらの土木構造物が破壊されることがあれば、八代海(不知火海)の生物多様性に重大な影響を与えることが懸念される。
6.浄化対策における現状の問題点
~坪谷埋立地における海面下素掘くぼ地へのダイオキシン類汚染底質埋立事例~
最近になって海岸道路の横の海水面以下における素掘りの窪地にダイオキシン類を含む底質が埋立られた。濃度は溶出量値で地下水環境基準の3000倍の3000pg-TEQ/Lである。環境法規制やガイドライン等が整備された現在においては、せめて管理型最終処分場の仕様で遮水シートを張り地下水モニタリングを行うことが必要であるが、水俣ではこれを行っていない。
↓「国道3号線の記号」の海側の水溜りに見える部分です。
↓月浦公民館の海側の水溜りに見える部分です。
↓地下水環境基準の3000倍が溶出するダイオキシン類汚染底質が埋められているところです。
↓水路の横にはダイオキシン類地下水環境基準の3000倍が溶出する底質が遮水シートも無く埋立てられています。(立入禁止の看板には意味深いものを感じます。)
↓穏やかな海岸に見えるがこの排水路からは地下水基準の3000倍のダイオキシン類が溶け出す汚染ヘドロからの地下水が放流されている。
7.廃棄物最終処分場
7.1 現状
チッソが水俣川河口付近に最終処分場を有している。通称「八幡プール」(約560,000m2)と呼ばれるこのあたりは、チッソ工場の残渣物等を埋立てており、水路はカーバイト等で白くなり、排水口は鍾乳石にように盛り上がっている。さらに、水俣川左岸河口付近の石積護岸擁壁からの湧水によち、石垣が白くなっている。
外周道路は、チッソから行政に移管されたため一般の立入が可能であるが、土木構造物である、護岸や水路擁壁の劣化は進んでおり、至るとことでクラックが確認できる。
7.2 昭和50年当時
「公害調査報告書(昭和50年度~昭和51年度前期) 水俣市市民部公害課発行」によると昭和50年頃において廃棄物処分場として下記の記載が確認できる。
・ひばりヶ丘旧廃棄物埋立地(田平市営住宅 国道3号線付近) 廃活性炭埋立処分190トン
・自動車学校(旧廃棄物埋立地)(カーバイト残さ) (総水銀:3.86mg/kg)
・大迫廃棄物埋立地 大迫不燃物埋立地 廃活性炭埋立地(総水銀溶出量:0.0047mg/kg)
・明神産業廃棄物(カーバイト残さ等) (アルキル水銀:10.8mg/kg 総水銀:308mg/kg)
・藪佐産業廃棄物(カーバイト残さ等) (総水銀:3.84mg/kg)
・大迫産業廃棄物(カーバイト残さ等) (総水銀:1.56mg/kg)
8.おわりに
チッソ水俣工場は国策企業として日本国の発展に貢献し、食料増産などにより水俣市民だけでなく国民の生活の向上をもたらした。水俣病患者の方には手厚い補償が望まれるが、水俣の数百万立法メートルを超える膨大な有害廃棄物による環境悪化に対しては国家プロジェクトとして浄化対策事業を早急に実施すべきと考える。
なお、ご案内頂いた山下善寛熊本学園大学水俣研究センター客員研究員(エコネット水俣理事長)、方向性を示していただいた赤木洋勝先生(国際水銀ラボ)、ご手配頂いた大沢忠夫様・愛子様(熊本学園大学現地研究センター)、現実をご紹介いただいたほっとはうすの山崎勇様に心より謝辞を申し上げます。
転載元: 環境不動産を学びたい