☆☆ ありがとう 木霊、おおらかな ありがたさ、
∈ 負けるな 痩せ蛙 一茶これにあり ∋
気づかなかった 慟哭の名句 ☆☆
∈ 痩せ蛙 負けるな一茶 これにあり ∋
(中断つづき)
変哲もない……、そう思っていた何気ない句は、こころの怠慢をキツく抓りました。まさか、あのヴァージニア・ウルフさんにつながるとは、次々と迫って悔いる絶句が、こころを襲います。‘あきんど’これを知ると、一茶さんや芭蕉さんの形而上学のその階段を、問答無用に登らせます。出家もさむらいも、コクみんにエンもユカリもないただの欲ボケ、しかし諸あきんどは、身近な上に、小さな正義を道理に備え、欺すも欺されるも、コクみんと連帯し一体ですから、‘公正で自由な公平や平等’のすべてが関わります。一茶さんの感性が鋭い冴えをみせます。
花の世や 出家さむらい 諸あきんど
イロハニホヘト を習ふ いろりかな
なまけるな イロハニホヘト 散桜
初雪や イロハニホヘト 習い声
初忘れ 頬を赤らめ イロハニホへト
一茶の句は‘起’と‘結’の間をリンクする緊迫感を身上とし、これが一茶の信条であって、三揃えの自由へ到達させました。独立の気構えは、‘起’と‘承’や‘起’と‘転’も含めて‘一茶のマ’が確立され、挿入され、言葉とリズムが際立ち、‘技’の類に紛れ埋もれさせず、独立の規律が啓示されます。イロハニホヘトは、abcdef …zと同じ役割と気づきますと、理解が浅かったヴァージニア・ウルフさんの灯台へ、改めて深い思いを想起させ、せめてもと、再アプローチを誘います。オペラ歌手が毎日・音階発音を胸一杯に練習する、それほどの緊迫感と緊張感が一茶のこころにも宿っていて、独立の規律が欠かせない‘力強さ’を如実に現して示すのが、イロハニホヘトに込める一茶さんの‘秘中の秘’。
「自力の人芭蕉」に対して「他力の人一茶」と言った荻原井泉水さんの着眼は、周平さんの‘ただの非凡’を凌ぎます。つまり日本の形而上学が西洋に遅れを取っていなかった、その認識をみなぎらせ、技巧の論評の中に紛らわされることもなく、注目させる固有の特質を導き出します。ズシリと加わるように感じさせる批判の重さは、一茶さんの句で励まされ、ウロタエさえ思わず払拭させるとは、先人が意表を突いて支える先人のありがたさです。‘痩せ蛙’も自分と、自分に手を差し伸べ、自分を‘負けるな’と素直にさせ元気づけた途端、おおらかな気持が諧謔の一望に涌きあがり、さらに深い影を落とし深い根を一望に張らせます。一茶さんの句を読みながら、一茶さんが痩せ蛙にも感じた‘負けるな’と励ます優しく強いこころは、自分にも伝わり自分をより素直により正直にさせ、そんな魔法が自分の隅々まで気力をゆき渡らせます。
一茶さんの非凡な名句、形而上学を借りて分析すると、エイブラハム・リンカーンさんに劣らない、最高レベルの言葉や、言葉遣いや、キリリとした文意を、紐解かせます。木霊が響かせた∈ 遠山が目玉にうつる蜻蛉かな ∋ 浅い理解を砕き、気持を緊張湧れる多忙へ急がせました。二万句に根をあげず、折々に、その凄まじいばかりに純化された‘独立’の言葉に触れ、欲ボケが暴発させた金融大騒擾の因果・捕捉に、使うつもりです。
☆☆ 建前に挑戦した
誠実な一茶さんの精神力 ☆☆
ヒトを騙すための嘘、自分に思い込ませるための嘘、苦し紛れの双つの嘘が、建前と本音の双とおりの‘意味’を介して、嘘を意識させましたから、 江戸に出て丁稚奉公した15才から、雪5尺を終の棲家にする51才まで、あきんどの世界を文銭を丹念に数え、銭の知を裏も表もシコタまに目撃、芭蕉さんとチガう世界をこころに晒しながら、長男長女・次男三男と妻を失い、三度の妻を得ても、柏原の大火で家を失い、最期に残したのが、蚤騒ぐ 焼け土の ほかり ほかり。教科書が素通りしてみせた、誠実に湧れる日本人の実力です。田母神俊雄航空バクリョー長さんの、粋がる一兵卒 裏切る初老の 浅ましさ、などお笑いの見本にすぎません。
雪散るや きのふは見えぬ 借家札
米値段 ばかり見るなり 年初状
おもしろや 隣もおなじ 計り炭
穀値段 どかどか下る あつさかな
店賃の 二百を叱る 夜寒かな
一期一会を伝えた中国事情、情を越え別れをこえ、一期一会に温もりを宿す、一茶さんのこころの強さ。追われるなら、足を止めぬまま、逃げるなら、脱するまま、住みつくなら棲みつくまま、生の循環は誇り高く、ヒトとヒトが和み、智恵と智慧が並び、少々の敵意や意地悪など死の循環は、見るばかりで、計り、二百文の正義に敷かれ、叱られ、喜びます。あつさかな どかどか下がる コク値段。人為と自然が混ざり合う東の、最遠の初日の出、全コクから寄り合った長屋の皆で仰ぐ、全コク江戸屋敷の江戸の春。銭がこころからこころへ温もりとイッショに動く、不思議のクニの奇跡。地から浮いた足で欲を追い、上を下を、縦を横に、建前と本音を使い分け、右顧左眄に忙しく、武士道すら見えぬまま、言い伝えられ回される少々の書きを受けて読み、面従腹背のその心理闘争に、明け暮れるそのアホらしさ。それとも別に、同じ赤貧を凛々しい‘公正で自由な公平や平等’で凌ぐ、里山の雄々しい気高さ、一茶さんが書に納めた近代心証を明かす二万句、実のところ空威張りを身上とする武士の面々には意味不明でした。
∈ にほんの知のレベル ∋
「パーキンソンの法則」……
あらゆる組織は肥大化し、
「ピーターの法則」……
あらゆる組織は無能化する。
小林秀雄さんが抽出した、
ドストエフスキーさんの神髄、
∈ 意識とは、観念と行為との算術的差であって、
差がゼロになった時に本能的行為が現れ、
差が極大になった時に可能的行為が
林となって道を失う。
安全な社会生活の保証人は、
習慣的行為というものであり、言い代えれば、
不徹底な自意識というものである。
自意識を豊富にしたければ、何もしなければよい。 ∋
簡潔に、一茶さんから、
∈ 秋の風 一茶心に 思うよう ∋
∈ 壁の穴や 我 初空も うつくしき ∋
∈ やせ蛙まけるな 一茶 これにあり ∋、
∈ 遠山が目玉にうつる 蜻蛉かな ∋
芭蕉さんから、
∈ 秋深き隣は 何をする 人ぞ ∋
∈ 蚤 虱 馬の尿する 枕もと ∋
∈ 草の戸も 住みかはる代ぞ 雛の家 ∋
おあまり、
∈ 見せよトンボ 短ん探ん複の 眼の光り ∋
∈ 初忘れ 痛がって イロハニホへト ∋
つづく
つつしんで……丈司ユマ著作権