鹿児島の南、約380㌔に浮かぶ奄美大島(鹿児島県)。闇に包まれた照葉樹の原生林で、茂みにライトを向けると茶色い毛に覆われた「アマミノクロウサギ」が浮かび上がった。光を反射する赤い目が見えた瞬間、ピョンと草むらへ消えていった。オオトラツグミやケナガネズミなど、珍しい動物が数多く生息する奄美大島。一帯の島々は海面変化や地殻変動を繰り返し、100万年ほど前に中国大陸から完全に切り離された。天敵が少ない環境で進化した生き物たちは独自の生態系を作りだした。アマミノクロウサギは、奄美大島と徳之島だけに住む国の特別天然記念物で、絶滅?危惧(きぐ)種に指定されている。本州のノウサギに比べて耳や手足が短く目も小さいのが特徴。原始的なウサギの形態を残すため「生きた化石」とも言われる。今、奄美の世界自然遺産登録を目指す動きが活発化し、環境省はアマミノクロウサギなどの生息域を国立公園に指定、保護管理を強化する計画だ。しかし、観光客増加による自然破壊なども懸念され、希少生物の楽園が存続できるのかは正念場を迎えている。
アマミノクロウサギ
アマミノクロウサギ 保全状況評価[1]分類学名シノニム和名英名
アマミノクロウサギPentalagus furnessi | ||||||||||||||||||||||||
ENDANGERED (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) | ||||||||||||||||||||||||
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Pentalagus furnessi (Stone, 1900)[2][3] | ||||||||||||||||||||||||
Caprolagus furnessi Stone, 1900[2] | ||||||||||||||||||||||||
アマミノクロウサギ[4][5] | ||||||||||||||||||||||||
Amami rabbit[1][2][3] | ||||||||||||||||||||||||
分布
形態
体長41.8 - 51センチメートル[3][4]。尾長1.1 - 3.5センチメートル[3]。体重1.3 - 2.7キログラム[3]。全身は光沢のある長い体毛と、柔らかく短い体毛で密に被われる[4]。背面は黒や暗褐色、腹面は灰褐色[4][5]。
眼は小型[3][4][5]。耳介も小型で[3][5]、耳長4.1 - 4.5センチメートル[3][4]。四肢は短く[3][5]、特に後肢は短い[4][7]。後足長8.5 - 9.2センチメートル[3]。指趾には爪が発達し[5]、穴を掘るのに適している。
属名Pentalagusは「5つの歯のあるウサギ」の意で、模式標本となった個体の上顎臼歯が左右5本ずつしかなかった(ウサギ科は通常左右6本ずつ)ことに由来する[4]。本種も通常は上顎臼歯が左右6本ずつある[4]。椎骨の突起は水平方向に長い[5]。
出産直後の幼獣はほとんど体毛が無く、眼も閉じている[4]。
分類
形態およびDNAによる分子系統学的解析、生態からウサギ科内でも原始的形態を残した種と考えられている。奄美群島に本種のような原始的形態を残した遺存種が分布する理由として、中新世に南西諸島が台湾と陸伝いだった際に侵入したが海水面の変動により島嶼に隔離されたこと、ノウサギ属が侵入しなかったためと考えられている[4]。
生態
山地や海岸の斜面にあるカシやスダジイからなる常緑広葉樹林や二次林に生息する[4][5]。高齢樹林の内部や林縁に伐採跡・二次林・沢などの疎開地が多い環境を好む[3]。単独で生活するが、野生下および飼育下でも1つの巣穴を複数個体が同時に利用した例がある[4]。複数の鳴き声を発したり[4]、後肢で地面を叩くことから個体間でコミュニケーションを行うと考えられている[5]。オスは平均1.3 - 4ヘクタール、メスは平均1 - 3ヘクタールの行動圏内で生活する[2]。行動圏は同性では重複しないが、オスの行動圏はメスと重複する[2]。渓流の周辺にある石や砂の上、林道などの一定の場所に糞をする[4]。夜行性で、昼間は斜面に掘ったアルファベットの「L」字状の入口が高さ10 - 20センチメートル・幅12 - 25センチメートル、長さ30 - 200センチメートルのトンネルと直径60 - 185センチメートルの落ち葉を敷いた部屋からなる巣穴や、樹洞や岩の隙間を拡張した入口が高さ15センチメートル・幅20センチメートル巣穴などで休む。
食性は植物食で、ススキ・ボタンボウフウPeucedanum japonicumなどの草本、アマクサギ・エゴノキなどの木本、スギ・ミカンなどの樹皮、スダジイの果実、タケノコなどを食べる[4][5]。飼育下では主にイゲシ・オオタニワタリ・サツマイモ・ホソバワダンなどを食べ、サトウキビ・シュンギク・ダイコン・ホテイアオイの葉、ナシ・バナナ・リンゴの果実なども食べた例がある[4]。 捕食者はハブで、外来種ではフイリマングース・野犬も挙げられる[2]。
繁殖様式は胎生。直径10 - 20センチメートル、長さ100 - 200センチメートルに達する繁殖用の巣穴を掘る[4]。飼育下では4 - 5月と10 - 12月に1回に1頭の幼獣を産んだ例がある[3]。野生個体を観察した結果でも、やはり春秋年2産、一産一子とされる[8]。一方で年間を通して幼獣の糞が発見されていることから、周年繁殖している可能性もある[3]。メスは幼獣のいる巣穴に立ち寄って授乳し、授乳が終わると巣穴の入り口を塞ぐ。
人間との関係
農作物や植林されたスギやヒノキを食害することもある[4]。
1950年代以降のパルプ材目的の森林伐採や道路建設・河川改修・リュウキュウマツの植林などによる生息地の破壊や分断化、交通事故、人為的に移入されたノイヌやノネコ・フイリマングースによる捕食などにより生息数は減少している[3][5]。2000年から環境省によってフイリマングースの駆除事業が進められるようになり、フイリマングースの減少に伴い本種の生息数も回復傾向にあると推定されている[3]。日本では1921年に国の天然記念物、1963年に特別天然記念物に指定されている。
2004年に種の保存法により国内希少野生動植物種に指定されている[10]。 1995年に自然保護団体により日本では初めて本種・アマミヤマシギ・オオトラツグミ・ルリカケスを原告とし、奄美大島でのゴルフ場建設の許可取り消しを求めた訴訟が鹿児島地方裁判所に提訴された[11]。原告を動物とすることは却下されたため、その後に動物の代弁として人名を挙げ訴状を訂正した[11]。 1992 - 1994年の糞調査における奄美大島の分布域・生息数は334.7平方キロメートル(奄美大島の47 %)・2,500 - 6,100匹、2002 - 2003年の糞調査における奄美大島の生息数は2,000 - 4,800頭と推定されている[2][3]。1992 - 1994年の糞調査における徳之島の分布域・生息数は33平方キロメートル(徳之島の13 %)・120 - 300頭と推定されている[2][3]。2003 - 2004年における徳之島の生息数は100 - 200匹と推定されている[3]。
- 鹿児島県版レッドリスト 絶滅危惧I類
日本では鹿児島市平川動物公園が1984 - 1989年に11頭(3月下旬から5月に4頭、9 - 12月に7頭)の飼育下繁殖に成功している[2]。
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生命(いのち)にぎわう亜熱帯のシマ ~森と海と島人(しまっちゅ)の暮らし~
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8 奄美の哺乳類 - 鹿児島県
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奄美諸島の自然や物は, 今から約一千万年前の地質時代に起源を持ち, 現在まで脈々 とその. 姿をとどめてきた。 生物相は古く, 中国大陸や東南アジアでは既に絶滅して しまった種が遺存種. (生きた化石) と していまだに生存している。