東京国立博物館のコレクション
東京国立博物館の収蔵品(館の用語では「列品」という)は11万件を超える[2]。これはあくまでも「点数」ではなく「件数」であって、考古資料などには1つの遺跡の出土品数百点が一括で「1件」と数えられている場合もあり、収蔵品の「点数」はさらに膨大なものとなる。館の収蔵品のほかに社寺、個人所蔵家などからの寄託品も3,000件以上ある[2]。収蔵品の入手経緯は、(1)明治初期以来、博物館の予算で購入してきたもの、(2)個人や団体からの寄贈品、(3)第二次世界大戦後に文化財保護委員会(のち文化庁)から管理換えされたものなどに分けられる。なお、いわゆる法隆寺献納宝物は1878年(明治11年)、法隆寺から当時の皇室に献納され、宮内省が管轄していたが、1947年(昭和22年)に国立博物館に移管されたものである。これらのうち展示されているのは約7,200件で、年間約5,500件の陳列替えが行われている[3]。
収蔵品は、地域的には日本およびアジア諸国、時代的には先史時代からおおむね第二次世界大戦終戦頃までのものを収集・展示の対象としている。なお、日本の地域で制作されたもののうち、アイヌの人々の美術と琉球美術については独立した展示室があてられている。東洋美術は、日本と地理的に近く、文化的にも影響の大きい中国および朝鮮半島の美術に力点が置かれているが、他にエジプト、インド、東南アジア(ベトナム、タイ、クメールなど)、中近東(メソポタミアなど)、中央アジアなどの美術品が見られる。このほか、南太平洋諸島の民族美術、西洋近代の陶磁器やガラス製品なども収蔵されているが、通常は展示されていない。
いわゆる美術品の範疇に属するもの以外に、歴史資料、図書、写真資料も多く収蔵されている。収蔵する歴史資料の代表的なものとしては長崎奉行所キリシタン関係資料、江戸幕府が作成した絵地図(道中図)である「五海道其外分間延絵図並見取絵図」(ごかいどうそのほかぶんけんのべえず ならびに みとりえず)全80巻、伊能忠敬の測量図、日本初の文化財調査である壬申検査の関係資料、旧江戸城写真帖などがある。博物館構内西側に位置する資料館には、図書資料、江戸時代のものを中心とする古文献資料、拓本、絵図、地図などの歴史資料、写真やマイクロフィルムなどが収蔵され、研究者には閲覧の便が図られている。このほか、通常は陳列されていないが、帝室博物館時代に収集された世界の郵便切手も日本有数のコレクションである。
博物館の予算による列品の購入は、明治時代の博物館創設期から開始されている。考古部門の代表的収蔵品の1つである、熊本県江田船山古墳出土品一括(国宝)は、館創設の翌年である1873年(明治6年)に当時の白川県(現・熊本県)から購入したものである。また、平安絵画の名品とされる普賢菩薩像(国宝)、尾形光琳作の八橋蒔絵手箱(国宝)、本阿弥光悦作の舟橋蒔絵硯箱(国宝)は、博物館が現在地の上野公園に移る以前の1878~79年(明治11~12年)に購入されたものである。
館蔵品の充実には個人所蔵家の寄贈も大きく寄与している。中でも中国書画の高島コレクション(高嶋菊次郎寄贈)、中国陶磁の横河コレクション(横河民輔寄贈)、中国陶磁と茶道具が中心の広田コレクション(広田松繁寄贈)、朝鮮美術の小倉コレクション(小倉武之助収集、財団法人小倉コレクション保存会寄贈)などが著名である。寄贈品ではないが、松方幸次郎(西洋美術のコレクターとして知られる、1865-1950)の浮世絵コレクション約8,000点は一括して東京国立博物館に入っている[34]。
東京国立博物館に対し大きなコレクションの寄贈をしたり、没後に関係者からコレクションが寄贈された人物を列記すると以下のとおりである(五十音順)。
- 小倉武之助(1870-1964) 朝鮮半島で活躍した実業家。大邱(テグ)電気(後の南鮮合同電気)創立者で朝鮮電力の社長や大邱商工銀行の頭取なども務めた。小倉の収集した朝鮮半島の文化財は1981年、財団法人小倉コレクション保存会から寄贈された。
- 高嶋菊次郎(1875-1969) 日本の製紙業に貢献した実業家。1965年、自身の満90歳を記念して中国書画コレクションを一括寄贈。没後にも遺族からの寄贈があった。
- 團伊能(だんいのう、1892-1973) 團琢磨の長男。東京帝国大学助教授。1944年に池大雅筆『楼閣山水図』(現国宝)などを寄贈。
- 広田松繁(1897-1973) 古美術店「壺中居」の創業者。生前、自ら蒐集した所蔵品のほぼすべて、計496点を寄贈。
- 松平直亮(まつだいらなおあき、1864-1940) 伯爵、貴族院議員、旧松江藩主家当主。1938年、『平治物語絵詞』や禅僧墨蹟などを寄贈。
- 松永安左エ門(1875-1971) 「電力の鬼」の異名をもつ実業家、茶人。1949年、茶道具などを寄贈。
- 三井高大(みついたかひろ、1908-1969) 三井財閥11家のうち「室町家」の当主。本人の遺志により、1970年、国宝の元永本古今和歌集などが遺贈された。
- 横河民輔(1864-1945) 建築家、実業家、横河電機・横河橋梁創立者。1932年以降数回に分けて中国のものを中心とする陶磁器コレクションを寄贈。
国宝の一覧
- 以下は、独立行政法人国立文化財機構所有、東京国立博物館保管の国宝の一覧である。(2016年8月現在88件)
- 国宝・重要文化財全件の一覧は別項「東京国立博物館所蔵文化財一覧」を参照。
絵画
仏画
- 普賢菩薩像 1幅 絹本著色 平安時代
- 虚空蔵菩薩像 1幅 絹本著色 平安時代
- 千手観音像 1幅 絹本著色 平安時代
- 孔雀明王像 1幅 絹本著色 平安時代
- 十六羅漢像 16幅 絹本著色 平安時代
大和絵・絵巻
- 地獄草紙 1巻 紙本著色 平安時代
- 餓鬼草紙 1巻 紙本著色 平安時代
- 平治物語絵詞 1巻 紙本著色 鎌倉時代
- 扇面法華経冊子 1帖 紙本著色 平安時代
- 一遍上人絵伝(巻第七)法眼円伊筆 1巻 絹本著色 鎌倉時代
室町水墨画
近世諸派
- 観楓図 狩野秀頼筆 紙本著色 六曲一隻 桃山時代
- 花下遊楽図 狩野長信筆 紙本著色 六曲一双(右隻の2扇を欠く) 桃山時代
- 松林図長谷川等伯筆 紙本墨画 六曲一双 桃山時代
- 洛中洛外図 岩佐勝以筆 紙本金地著色 六曲一双 江戸時代
- 楼閣山水図 池大雅筆 紙本金地著色 六曲一双 江戸時代
- 檜図 伝狩野永徳筆 紙本金地著色 四曲一双 桃山時代
- 鷹見泉石像 渡辺崋山筆 絹本淡彩 1幅 江戸時代(1837年)
- 納涼図 久隅守景筆 紙本淡彩 二曲一隻 江戸時代
渡来画
- 出山釈迦図・雪景山水図・雪景山水図 梁楷筆 3幅 絹本墨画淡彩 南宋時代
- 紅白芙蓉図 李迪筆 2幅 絹本著色 南宋時代(1197年)
- 瀟湘臥遊図 1巻 紙本墨画 南宋時代
- 禅機図断簡(寒山拾得図) 因陀羅筆 1幅 紙本墨画 元時代
書跡
仏典
古筆 古文書
典籍
| 漢籍
墨蹟 |
工芸品
刀剣以外 刀剣
|
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考古資料
- 袈裟襷文銅鐸(けさだすきもん どうたく) 伝香川県出土 1箇 弥生時代
- (指定見込み)奈良県東大寺山古墳出土品 一括 古墳時代 - 2017年度に国宝に指定される見込みである(官報告示を経て正式の指定となる)[35]。
- 江田船山古墳(えたふなやまこふん)出土品 熊本県出土 一括 古墳時代
- 埴輪武装男子立像 群馬県太田市出土 1躯 古墳時代
- 文禰麻呂墓(ふみのねまろぼ)出土品 一括 奈良時代(707年)
- 興福寺金堂鎮壇具 一括 奈良時代
法隆寺献納宝物
- 絵画
- 聖徳太子絵伝 秦致貞筆 10面 絹本著色 平安時代
- 書跡
- 法隆寺献物帳 1面 奈良時代(756年)
- 細字(さいじ)法華経 1巻 唐時代(694年)
- 工芸品
- 金銅灌頂幡 1具 飛鳥時代
- 鵲尾形柄香炉(じゃくびがた えごうろ) 1柄 飛鳥時代
- 金銀鍍竜首水瓶 1口 飛鳥時代
- 海磯鏡(かいききょう) 2面 唐時代
- 金銅墨床・水注・匙 1具 奈良時代または唐時代
- 黒漆七絃琴 1張 唐時代(724年)
- 沈香木画箱(じんこう もくがはこ) 1合 奈良時代
- 竹厨子 1基 奈良時代