南シナ海におけるアメリカの艦船派遣だけがクローズアップされているが、これには前段階がある。それを見ないと判断を誤る。
中国は1970年代以降、南シナ海全域への侵略を強化し、南シナ海を自国の領海にする行動を進めてきた。これは、南シナ海だけでなく、東シナ海の問題と密接不可分なのだ。
東シナ海の領海化のためには、尖閣諸島を自国のものにする必要があり、そのために日本から尖閣諸島を奪うことを考えていると見てよい。
もちろん尖閣諸島という無人の小さな島が最終目的ではない。東シナ海の海底資源が目的でもない。
軍事侵略国家の中国は海洋進出の必要から、尖閣諸島が日本の領土であることが邪魔になるということだ。尖閣諸島を中国のものにしてしまえば、台湾は統合したも同然となる。
さらに台湾を統合した後、日中中間線あたりに軍事施設を作り、沖縄の独立運動を煽って沖縄を中国の支配下に置けば、沖縄も奪える。そうなれば西太平洋は中国の支配下に置けるということだ。
中国は相手国の軍事力が弱いと見たら、言いがかりをつけて武力衝突して軍事占領することを繰り返してきた。南シナ海の歴史は、それを証明している。
話し合いで分かる相手でないことは、ベトナムやフィリピンが中国に自国の「領土」を奪われた歴史を見れば、明らかだ。暗礁だから領土と言うには問題があるが、中国は暗礁を奪って人工島を作り、その人工島の周囲12カイリを自国の領海だと主張しているのだ。国際法もヘチマもあったものではない。いかに無法な主張をしているかということだ。
南シナ海での中国の無法行為をみれば、東シナ海でも同様のことを考えていると見るのが自然である。日本としては、これは防ぐ必要がある。そのためには、南シナ海で起こっていることを検討する必要がある。
南シナ海で中国の侵略を受けた国の特徴として、海軍力が弱いうえに同盟国がなかったということがある。そこを中国に付け込まれたのだ。
ベトナムもフィリピンも海軍力は弱体である。しかも同盟国がなかった。ベトナムはベトナム戦争後にアメリカが撤退した直後、中国から陸と海の両方で侵略を受けている。フィリピンはアメリカの基地を追い出した間隙を突かれた形になっている。
日本は海上自衛隊という海軍力を持っている上、アメリカと同盟を結んでいる。ベトナムやフィリピンよりも武力衝突という手段に出るのは、格段に難しく厄介だ。だから、今のところ、そういう手段では出ないが別の手段で出ることを考えている。このことについては、別の機会に譲る。
中国の尖閣諸島奪取と長期計画については、下の記事参照
中国は南シナ海において1970年代から着々と実効支配を拡大してきた。1974年に西沙諸島でベトナムと武力衝突し、軍事占領した。1988年には南沙諸島でベトナムと衝突し、実効支配を広げた。占領後は軍主導で建造物を建てるなどして既成事実化を進めてきた。1995年にはフィリピンが領有権を主張していた南沙諸島のミスチーフに間隙をぬって進出し、軍事施設を建設してしまった。
東シナ海の尖閣諸島は中国から見て第1列島線の内側にあり、近海防衛戦略の対象に含まれる。しかも中国には南シナ海の前例があるだけに「次は東シナ海、尖閣諸島がターゲット」と日本は警戒せざるを得ない。実際、実効支配化へのプロセスもよく似ている。初めに漁船が出没する。その漁船保護の名目で海軍など公船がやってくるというパターンだ。尖閣諸島付近でも漁船の強引な行動が目立つようになっており、2010年9月には海上保安庁の艦船との衝突事件が起きた。
フィリピンと領有権を争う南シナ海に出没する中国漁船には、中国政府から補助金を出していることがわかっている。政府が積極的に問題海域へ出漁させ、既成事実化を図っているのだろう。尖閣諸島付近に出漁する漁船にも同様の措置が取られているようだ。
また海軍は漁民の中に民兵組織を構築している。漁民を国防に動員させるためだ。南シナ海や東シナ海の問題海域へ出漁する漁民が民兵の肩書を持っている可能性も否定できない。・・・・・・・・・
「中国人民解放軍の実力」 塩沢英一著 ちくま新書 2012年 p115