小湊フワガネク遺跡群. （鹿児島県名瀬市大字小湊字外金久）. 位置と環境. 太平洋に面 している小湊集落は，南北に広がる海. 岸線に いながら，２列の海岸砂丘が認められる 。 当該砂丘列は，完新世における気候変化で生じた海. 面変動（海進海退）により形成 ...

遺構と遺物
1997（平成９）年の発掘調査（第一次調査，第二
次調査）では，７世紀前後に位置づけられる掘立柱
建物跡（４棟)，貝匙製作跡（５箇所）等の遺構を
はじめとして，兼久式土器（約8,000点)，ヤコウガ
イ貝殻（約3,000点)，ヤコウガイ製貝匙（約90点)，
イモガイ製貝札（16点)，鉄器（８ 点)，礫（約
3,000点，石器を含んでいる）等の多数の出土遺物
が発見されている。現段階で，当該遺跡に関する中
核を成す資料群である。
掘立柱建物跡は，４棟とも第二次調査地点から確
認されたもので，いずれも長方形を呈しており，４

ⅿ×２ⅿ前後の共通した規模が認められる。
貝匙製作跡は，第一次調査地点から２箇所，第二
次調査地点から３箇所確認されている。おびただし
い数のヤコウガイ貝殻が集積されたり，破片が集中
して出土するが，製作途上段階のヤコウガイ製貝匙
が一緒に出土して，貝殻破片の割れ方には著しく高
い共通性が認められることから，そうしたヤコウガ
イ貝殻の集中出土箇所は貝匙製作にかかわる作業跡
と理解できる。
第一次調査地点，第二次調査地点における出土土
器は，􌓕兼久式土器」と呼ばれている奄美諸島特有
の在地土器に相当する。器種構成は，甕形土器と
形土器からなり，有文土器と無文土器が認められる。
有文土器は，文様の特徴から２大別できる。第１類
土器は口縁部に沈線文のみ施すものである。第２類
土器は，口縁部下（もしくは頸部）に刻目を施した
隆帯を１～２条巡らせて，口縁部のみか隆帯を挟ん
で口縁部・胴部に沈線文を施すものである。第１類
土器と第２類土器の双方とも，口唇部に刻目を施し
ているものが多数認められる。また第二次調査地点
において，土師器模倣土器が１点出土している。
イモガイ製貝札は，第一次調査地点から６点，第
二次調査地点から24点の合計30点が出土している。
いわゆる「広田遺跡上層型貝札」の範疇に含まれる
ものであるが，すべて兼久式土器に共伴している。
貝札の出土箇所は，貝匙製作跡と重複する傾向が認
められる。第一次調査，第二次調査における双方の
出土資料を比較してみると，文様意匠の共通性は認
められるが，文様構成が若干相違している。
水洗作業が十分進められていないため，石器につ
いては判然としないが，研磨痕や敲打痕が残されて
いる大小の石器が貝匙製作跡の周辺部分から多数出
土している。貝匙製作と関連して使用されていた可
能性が高いと考えられる。
それから若干の鉄器が出土している。第一次調査
地点から５点，第二次調査地点から13点が出土して
いるが，いずれも破片である上に錆で膨らんでいる
ため，器種を特定することは難しい。
そのほか食料残滓と考えられる自然遺物（貝殻・
獣骨等）も多数出土している。

続いて遺跡範囲確認の発掘調査であるが，2000
（平成12）年の発掘調査（第四次調査）はトレンチ
５箇所，2001（平成13）年の発掘調査（第六次調
査）はトレンチ４箇所で調査を実施している。いず
れも狭小なる調査面積であるため，確認されている
遺構・遺物は多くない。
第四次調査は，第一次調査，第二次調査と同様の
兼久式土器段階のヤコウガイ貝殻集積が確認されて
いるほか，箱形石棺墓１基が発見されている。墓壙
内に撹乱されており，人骨のほとんどが失われてい
た。しかし，副葬遺物として，200点を越える貝製
小玉や若干のガラス製小玉が出土している。帰属年
代は，兼久式土器段階，もしくはそれ以前の段階に
位置づけられると考えられるが判然としない。
第六次調査は，12世紀後半～13世紀前半の良好な
る遺跡包含層が確認されている。遺構は集石土坑を
検出し，遺物は類須恵器，玉縁口縁白磁碗，滑石製
石鍋，土師器，布目圧痕土器，滑石混人土器，鉄器，
滑石製品等が出土している。またいわゆる「スセン
當式土器」に類似した型式不詳土器を主体とした遺
跡包含層が確認されている。当該箇所では，上層に
兼久式土器包含層，さらに上層に類須恵器包含層も
確認され，包含層の畳重が認められる事実は，きわ
めて重要である。おそらく古墳時代に位置づけられ
ると考えられる。
特徴
小湊フワガネク遺跡群の発掘調査成果には，琉球
弧（南西諸島）の考古学研究において重要と考えら
れるいくつかの課題が含まれている。
奄美諸島の在地土器として知られている兼久式土
器は，帰属年代や型式細分等の研究が著しく停滞し
ているため，当該段階の考古学研究全般に重大なる
支障を来たしていた。しかし，小湊フワガネク遺跡
群の発掘調査により良好なる資料が多数獲得され，
兼久式土器の古段階と考えられる資料は７世紀前後
に位置づけられる結果が得られたため，帰属年代や
型式細分等にひとつの見通しが確認されたと考えら
れる。今後の編年研究における重要資料として注意

される。
そして兼久式土器と広田遺跡上層型の貝札が共伴
して出土した事実から，これまで弥生時代後期に位
置づけられていた年代理解についても，再検討は必
至であろう。
さらに，地中で腐りやすい鉄器が，兼久式土器段
階で多数発見されているという事実から，相当に鉄
器が普及していた可能性が考えられる。すなわち琉
球弧の鉄器使用開始時期とされる12世紀という通説

奄美市名瀬小湊で発見された7世紀前半の貝製品の生産集落遺跡。2010年8月に国 指定史跡に。 掘立柱建物跡・墓・動物の骨などの他、ヤコウガイの貝匙・イモガイの貝 符など貝製品が大量に出土。また、大量の兼久式土器の他、鉄器も出土している。