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[転載]作品更新-魔女の棲む家

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 本館 Gallery に新作をアップした。今回の作品は、今までの神話伝説シリーズやSFシリーズなどには属しない、いわば独立した作品である。森の奥深くに魔女の棲む家があるとしたら、どんなものだろうと考えながら制作した。ちょうど10月はハロウィーンの月でもあるので、こうした企画も面白かろうと思い構想を練ったものである。ただ、暗いタッチの作品を作るつもりはなかったので、童話風の外観にし、森も空も明るい色を選んだ。

 我々が抱く魔女のイメージは、「魔女の宅急便」を別にすると、西洋の物語に出て来るとんがり帽子に黒いマントの意地悪げな女性で、緑色の肌をして鼻がまがっている。そして、お馴染みのほうきにまたがって、満月の夜、空を飛んでいるといったところだろうか。

 しかし、日本人なら子供でも、魔女は日本にいないと知っている。魔女は西洋諸国に住んでいて、歴史上も日本には存在したことがないと。そう思うのは、魔女がキリスト教の世界の産物だからである。キリストに対する悪魔、その手下の魔女。こういう構図になっているから、仏教社会の日本には、魔女の住む場所はない。昔から日本には様々な妖怪が棲んでいたが、魔女はその仲間入りをすることがなかった。そうして考えると、魔女というのは非常に宗教的な存在だとも言える。

 一方、西洋諸国では、魔女は空想の産物ではなく、現に宗教史上いたことになっている。そして、多くは捕らえられ、宗教裁判にかけられた。殆どは拷問の末に、自分が魔女であることを認め、火あぶりの刑に処せられ死んでいった。今ではそれらは冤罪だったと言われているが、では一人も魔女はいなかったのかというと、人々の心の中には、僅かだが本当の魔女はいたのではないかという疑念が湧き上がるに違いない。それはキリスト教が悪魔の存在を教えとして肯定している以上当然のことで、キリストを信じるなら、その対立的存在でもある悪魔の存在を信じることになるし、それは同時に悪魔のしもべである魔女も認めることになる。逆に言えば、魔女なんかいないと考えると「じゃあ悪魔もいないんだ」ということになり、挙句に「荒野で悪魔に会ったと言うキリストは嘘つきだ」という、まことにもって具合の悪い論理展開になる。全ては一続きにつながっているのである。この辺りの微妙な感情は、仏教徒であり同時に宗教心が極めて薄い日本人にはなかなか理解できないところだろう。

 米国のボストンから北に少し行ったところに、セーラムという町がある。ここは、東海岸に住むアメリカ人には結構有名な町である。今では静かな港町と聞いたが、忌まわしい過去がある。1692年にこの小さな町で、魔女騒動が持ち上がった。事の発端は、黒人の家政婦が子供たちに占いの方法を教えていたところ、何人かがひきつけを起こしたという些細なものである。この家政婦は魔女で、子供たちに魔法をかけていたと主張する牧師によって、魔女騒動の輪は一気に広まり、子供たちの証言で次々と大人たちが投獄され拷問を受けた。かくして、19人が処刑され1人が拷問により死んだという。

 この家政婦が魔女にされてしまったのは、子供たちに占いを教えてやっていたためであろう。宗教というのは、過去の歴史において、血塗られた排他的な闘争を数多くやって来ている。昔から伝わっている大規模な宗教の場合、今ではすっかり善意のかたまりのようなイメージになっているが、黎明期や活動拡大期には、他の宗教をあらゆる手段で弾圧・圧殺し勢力を拡大した過去を持つ。キリスト教といえども例外ではない。中世のヒステリックな魔女狩りでは、昔から伝わる土着的儀式を行う人は魔女とみなされ殺された。古来の原始的な宗教行事や占い、民間伝承の医療行為(薬草とかまじない)などは、悪魔の儀式と捉えられたし、土着の神は悪魔に仕立てられていった。今月はハロウィーンの月だが、これもキリスト教が広まる過程で、キリスト教以前の宗教行事が悪魔や怪物と結び付けられ変質していった成れの果ての姿である。

 そうして考えると、魔女といわれた人の多くは、古くからの言い伝えや行事を守り続ける古老だったのだろう。キリスト教が広まる前は、村の人たちがこうした古老を頼って生活していたに違いない。体の具合が悪くなると薬草で作った薬を求め、悩み事があると占ってもらっていたのだろう。いわば、村の知恵者だったわけである。新興宗教であったキリスト教は、それらを押し潰しながら広まっていった。

 このコンピューター・グラフィックス(CG)に描いた家に住む魔女は、緑色の肌を持つ恐ろしい化け物ではなく、古くからの言い伝えを守って生きる孤独な老人なのである。


(このブログは、「Stardust Crossing」( http://webstreet.jpn.org/stardust/)の一部として運営しています。)

転載元: Vue & Poser 制作雑記 あるいは 途切れがちの日記


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